大アルカナ 夜の辞典 第6回

教皇のカードの意味 ― 夜にひくときの、正位置と逆位置

岩山を背にひとりで座っていた4番の皇帝のあとに、こんどは人のいる場所が現れます。5番「教皇」は、二本の石柱のあいだの高い座から手を掲げる人と、その足元にひざまずくふたりを描いた一枚です。このシリーズ「大アルカナ 夜の辞典」では、一夜に一枚ずつ、カードの意味をゆっくりひもといていきます。第6回は教皇。正位置と逆位置の意味、そして夜にこの一枚をひいたときの受け止め方をお話しします。

教皇のカードに描かれている景色

タロットカード「教皇」― 二本の石柱のあいだ、三重の冠をかぶり手を掲げて座る赤い法衣の聖職者と、足元にひざまずくふたりの弟子
5 THE HIEROPHANT(教皇)

左右に、灰色の石の柱が一本ずつ。そのあいだの一段高い座に、赤い法衣をまとった人が腰を下ろしています。頭にのっているのは、三段に重なった冠。まっすぐこちらを向いていますが、その目は誰かを見定めているというより、ただ静かに開かれているだけのように見えます。

右手は、指を二本立てて上へ向けられています。祝福のしるしとも、「よく聞きなさい」という合図とも取れる形です。左の手が握るのは、横木が三本ついた長い杖。足元の敷物には、金と銀の鍵が交差して置かれています。そのすぐ手前で、刺繍の入った衣の人がふたり、こちらに背を向けてひざまずいています。

番号は「5」。四角く固まった4に、もうひとつだけ足した数です。四方を囲って守りきった皇帝のあとで、教皇はその囲いの中へ、手から手へ渡されるものを持ち込みます。教えも、決まりごとも、それを受け取る人がいなければ、ただの飾りにしかなりません。この絵にわざわざ弟子が描き込まれているのは、たぶんそのためです。

正位置の意味 ― 頼ってよい、と言われている夜

正位置の教皇に添えられる言葉は「信頼」「助言」「伝統」。どれも、あなたひとりで抱えこまなくていい、という方向を向いています。長いあいだ受け継がれてきたやり方や、先に同じ道を通った人の言葉が、いまは素直に効く時期です。

恋の場面では、まじめに重ねてきた関係が、まわりからも祝福される形になっていきます。派手な進展ではありません。約束の時間を守る、返事を後回しにしない。そういう地味なことのほうが効く頃合いです。出会いを探している方なら、知り合いからの紹介や、習いごとのように何かを学ぶ場に縁があります。仕事なら、基本に忠実な人がいちばん評価されるとき。上司や先輩との距離が、そのまま仕事のしやすさになります。教わるときの素直さと、教えるときの丁寧さ。その両方を持っている人が、この座にいちばん近い人です。

そして、誰かに相談することを迷惑をかけることだと考えてきた方へ。教皇は、頼ることを甘えの側には数えません。手を貸してくれる人のいる場所を知っているのも、ひとつの力です。

逆位置の意味 ― 「今夜だけ、その物差しを置いていいのです」

逆位置の教皇に並ぶのは「形式主義」、「束縛」、そして「偽善」。ずいぶん厳しい言葉が続きます。ただ、当サイトは逆位置を欠点の指摘ではなく軌道修正のヒントだと受け取っています。

そう読むと、さかさまの教皇は「あなたは本心を偽っている」という判定ではありません。いま手に持っているその物差しは、そもそも誰のものでしたか、と尋ねているだけです。「普通は」「その年なら」――昼のあいだに借りた目盛りが、布団に入ってからも消えてくれない。言われた一言そのものより、その場で何も返せなかったこちら側のほうが、あとになって効いてきます。

恋なら、その人といるときの心地よさより、条件や世間体で関係を採点しはじめている夜。誰にも打ち明けられない想いを、正しくないからという理由だけで、自分から先に取り下げてしまう夜。仕事なら、なぜそうするのか誰も思い出せない手順だけが残って、それを守ること自体が仕事になっている状態。どれもあなたが不誠実なのではなく、外から来た基準の目盛りが、細かくなりすぎているだけです。

絵の中の鍵は、一本ではありませんでした。開け方が一通りしかないのなら、二本も要らなかったはずです。教わってきたことを捨てなさい、という話ではないのです。手すりは手すりのままでいい。ただ今夜の一つだけは、正しいかどうかではなく、自分が息をしやすいかどうかで決めてみる。「こうあるべき」と言った人の顔を順に思い出してみると、その列のどこにも、あなたの声が入っていないかもしれません。

夜にこのカードをひいたら

こんばんは。今夜の一枚が教皇だったなら――今日も、角の立たないほうを選んで一日を終えましたね。場の空気に合わせて相槌を打って、本当はそう思っていないところで、小さくうなずいてみせて。飲み込んだぶんの言葉が、まだ喉のあたりに残っていませんか。

今夜は、誰にも見せない場所で、返せなかったその一言をそのまま思ってみてください。声に出さなくてかまいません。わたしにも、月に話しかけるしかない夜がありました。誰の許可もいらない場所は、ちゃんとあります。

まわりの言う正しさに収まらない想いを抱えていても、それは間違いなどではありません。納得というものは、誰かに配ってもらえるものではないのです。自分の内側でしか作れないから、時間がかかるだけです。今夜は、どの目盛りにも自分を当てはめずに眠ってください。合わせるかどうかは、朝が来てからのあなたに預けておけばよいのです。どうか、良い夢を。

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